父が照れもせずに「ワイフ」と呼んでいた母が亡くなった。残された父は、大の大人とは思えないほど、泣きじゃくる日々…
そんな父を見て、母の遺品整理など無理と考えていた。ところが、意外なことに父は「遺品は全て整理する!」と断言。業者を呼んで、処分してもらっている。母の遺品を見ると、思い出すことが多すぎて「気がおかしくなる」からだそうだ。
業者のテキパキとした仕事のおかげで、母の遺品は全て無くなった。これで父は、落ち着きを取り戻すかと思ったのだが、やはり、簡単に割り切れるものではないらしい。今度は「思い出が無くなった…」と嘆く。
そんななか、父が箪笥から一枚のチラシを発見、ニッコリと微笑んでいる。海の画像があるチラシを大事そうに仏壇の前に。「この海に、いつか一緒に行こうと言ってたねえ…」と、亡き母に話しかけている。
ほんの、紙切れ、一枚。まだ行ったことのない海が、思い出となり、希望となったようだ。父よ、その海、いつか僕と行こう。